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融合とはいうけれど

*Theatre Project Si  『リア王』 国立能楽堂(2008.11.11)



「東西文化融合プロジェクト」と銘打たれています。狂言師とオペラのテノール歌手、ソプラノ歌手をキャストに据え、自らも能楽師の修行を10年経験し英国在住歴の長い演出家(日本人)によるディレクションで、狂言とオペラの要素を融合させる実験的作劇の今回が第二段。おおまかに言えば、そういう企画なのだそうです。


全体としてもっとも引っかかったのは、ドラマ自体の緊張感がないこと。演出・演技プランの軽さのせいか、展開がことごとく簡単に運んでしまう印象がありました。疲れ、やつれた、あるいは狂気めいてわめくリア王(翻案のため役名は「大殿」)にしても、目玉をくりぬかれるグロスター公(「越前守」)とその息子の関係性にしても、そこに至る展開が軽いために、説得力に乏しい。そのため、本来現出しているはずの悲劇の大きさが伝わらないのです。


なぜそうなっているのか。異分野の人々が結集した上で(それゆえに、か)、統一的な基盤のないものを上演してしまった結果ではないでしょうか。どの分野ともつかない、かといってそこに新奇、新鮮な何かが生まれている、ということでもありません。むしろ、断片的な狂言、オペラの要素は端々に盛り込まれています。


装束は基本的に狂言のそれ、あるいは打掛。設定を日本にしてあるため、ともかく和装束が基本になっています。終盤に登場する福山正則は具象的な甲冑姿。リア王の末娘コーディリアと道化役はそれぞれ、ソプラノ、テノール歌手が演じ、ところどころに歌を入れる。歌以外の芝居パートは、時代劇風味の普通の口調による会話。強いていえば狂言に近いのだけれど、「うまくひっかかるか、お楽しみ、お楽しみ」「お前の悪行の終止符を打ちにきた」「~しては大変」など、妙に現代っぽい、あるいは翻訳台詞っぽい言い回しが度々登場するため、全体としてダイアローグのトーンに統一感がなく、でこぼこしている印象です。
歌手組はとりたてて狂言に近寄らない台詞回しで喋り、そうかと思えば「でかいた」や、呼び出される際に発する「は~」という太郎冠者的な長い返事は狂言型でやってみたりと、演技の色が場面場面でずれてゆきます。そのやり方自体は絶対的に悪いわけじゃなくて、それで有機的に面白く重なっていれば良いのですけれども、演技のトーンの違いが強調されるだけになっていて、話が線としてまとまることの邪魔をしているのではないかと。

そして台詞は凡庸で少ないため、切迫感や世界を説明するには要素不足、ということもあるでしょう。それらが、全体としてこのドラマから緊張感を削いでしまっているように思われます。時折歌われる道化やコーディリア(鮎姫)の歌も、それまでの芝居のトーンに耳慣れた直後だと、妙に浮いてしまってなじまない。時代劇調の台詞で物語が続いていたところに、ふいにオペラ的な独唱が入るのは気持ち悪く感じられました。リア王の慰みのため、道化がおどけた歌を歌う場面など、そうしたおさまりの悪さゆえふざけているように見えてしまいます。歌声が悪いわけではないので、歌手組には損な役回りになってしまったのではないかと。


つまるところ、「融合」といったときに何を志向するか、ここのプランは非常に重要なのです。
キャストはほぼ同一分野で統一し、演出面に異分野を導入する、というかたちがひとつ。これはたとえば歌舞伎が野田秀樹や三谷幸喜を作・演出に起用したときに、完成度の高いものをみています。あるいはひとつの分野の身体技法を抽出して、より普遍的ななにか(現代演劇とか)に溶け込ませるというものもありうるでしょう。世田谷パブリックシアターにおける野村萬斎の『山月記』はそれに近いかもしれません。

いずれにせよ、結局のところなにか方向性はひとつに定めないと、演劇としての完成形に近づけることは難しいのではないでしょうか。ある分野の要素と、別の分野の要素と、両方ところどころ入れています、というやり方が必ず失敗するとはいいませんが、それは総員共通して志向すべきベクトルを見失うことになりかねません。ある身体技法でもいいし、演出家個人の独創性でもよいですが、主導するものを決めて引っ張ることの必要性を感じました。「融合」というだけでは、ディレクションにはならないのです。
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