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贅肉のない見立て

*演出 サイモン・マクバーニー 『春琴』 世田谷パブリックシアター (2009.3.10)


舞台装置は抽象的なのですが、場面背景を表現するのに用いられる道具(畳と竿)の使い方、およびそれらを場面に合わせて即座に変形させていく黒衣たちの動きに、見事なまでに無駄がありません。茫とした薄闇の空間の中に、場面に応じて必要最低限なだけの見立てを手早くつくり、そこに照明が集中して、不思議と具象性の高い(ような気がしてしまう)セットが出来上がる。
春琴と佐助の環境が畳の間、廊下、屋外と移るに合わせて、道具たちが的確に表情を変えるのですが、あくまでシンプルな形状の畳と竿の連なりでしかないので、ストイックな機能美こそあれ、一向うるさく感じることもないのです。


抽象的な舞台装置というのは、どうにでも見立てられるぶん、「ここに○○がありますよね」と観客の想像に多くを委ねてしまえるわけです。もちろん、今回の舞台も基本的に具象を排した装置であるので、その例に漏れるものではないでしょう。ただし演出者はその茫漠とした薄闇の中に、少ない道具と照明で明確な方向性のイメージを与えるシェイプをつくろうとしている。そして、それに成功していると思います。最低限、必要充分なだけのモノと黒衣の動作で、実に贅肉なく遂行している。この手柄が、劇全体を締めているといえるでしょう。


少女期から若年期の春琴は人形によって表現され、このとき、のちに春琴役になる深津絵里は春琴の声と半身の操縦を担当しています。文楽の主遣いが台詞も担当しているようなものといえばよいでしょうか。この時期の春琴の声は少女性を強調するため、大人が作り込んだ子供の声色、になっています。ともすればアニメ的ともいえるこの声色は、春琴の年齢、それに我儘さを伝えるには良いアプローチなのかもしれませんが、コミカル色が強くなりすぎる難点もあって、一長一短なのかなあと。そうそう他のアプローチがあるわけでもなく、また声色を作れば「声優」的な発声に近づいてしまうのは致し方のないことなのですけれども。


春琴の姿が操り人形から深津本人、人間の顔を持つ生身の肉体へと移る契機は、春琴に習いに来ている弟子の女の子と佐助との距離感に春琴が嫉妬するシーン。嫉妬心の発露の瞬間に春琴は生身の人間(深津)によって演じられ、佐助を叩く。しかしまた、春琴の人形→演技者への転換は、佐助への執拗な嗜虐性が解消してゆく契機とも重なっているようです。以後の春琴は佐助を受け入れるやり方が確実に穏やかになっている。逆にそれは、少女期の春琴のある種のモンスター性が、冷たく固定化した人形のマスクによって効果的に描き出されていたのだな、ということの確認でもありました。こと春琴抄に限っていえば、どちらの時期の関係性の方がよいのかわかりませんが。


晩年の佐助と思しき男が冒頭から登場し、舞台の中央近くに位置してほとんど動かず、ときおり語り部として回想の台詞を口にします。しかし彼が語りの大部分を引き受けているわけではなく、メインストーリーの春琴と佐助(晩年の佐助とは別役者)の営みが進行している際には晩年の佐助はサブとして機能、あるいはまったく光が当たらず存在があるのかわからない場面も多い。
それでもその存在を薄くしたり濃くしたりしながら居続けていることで、この話全体が、晩年の佐助の回想を現前させているもののようにもとれるわけです。回想の中だけであろうとも、佐助にとって、春琴との営みはあくまで引き続いていて。「生きている相手を夢でのみ見ていた佐助のような場合にはいつ死別れたともはっきりした時は指せないかも知れない」という文章が印象的に重なります。それは別の言い方をすれば、いまだに明確に死別などしていないわけで。自ら視覚を失った佐助は「夢でのみ」春琴と添い続けているわけですね。


もうひとつの位相として現代パートも並行しています。中年女性のナレーターが、スタジオで春琴抄を朗読し、現代目線で俯瞰するようにスタジオサブとの雑談を交え、張り詰めた舞台上にほどよいブレイクを提供しています。彼女は小説内世界に耽溺するというよりは、その本を、あるいは登場人物たちを、一歩引いたところから優しく慈しんでいるようなスタンスで、その入り込まなさが心地よい。ラストで彼女がスタジオを出て行く際にかける「おつかれさま」の台詞は、たった今まで彼女のナレーションとともに現前していた春琴たちに向けられたもののようでした。
メインストーリーと、晩年の佐助という二つの位相でもきれいに完結しただろうとは思いますが、この第三の位相は決して蛇足でない。緊張と弛緩のバランスがきれいにとれていると思います。
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