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つくり損ないのレトロモダン

*『東京月光魔曲』 シアターコクーン (2009.12.17)


昭和初期の東京・銀座のモダン。
今日から思いを馳せるならどうしてもファンタジック風味が強くならざるを得ない時代設定を前にして、ケラリーノ・サンドロヴィッチは方向性を掴みかねているように見えます。日露戦争後~太平洋戦争前という時期の東京を描くことに台詞、立ち居振る舞いの制約を設けているのか、ケラにしては台詞の応酬がおとなしすぎる(というか冗長)。ではその制約の結果、レトロモダン東京が現出したかというと、これには首をひねらざるを得ません。

夜の銀座の賑わいにせよ、その裏面としての推理・探偵小説的怪しさにせよ、おそらくその本質は小手先の立ち居振る舞いの制御ではないのでしょう。銀座の賑わいと雑誌『新青年』的怪しさの両面いずれにも必要なのは、退屈な間を埋めてしまう喧騒、それにある種の緊張感であろうかと思います。それがあれば、いつものケラ作品の登場人物でも全然よかった。
ナイロン100℃のテイストが強くなる犬山イヌコ、大倉孝二、山崎一らのシーンに昭和初期風味を感じ取ることができなかったかといえば、そんなことはないので。むしろ本来ストーリーを推進していく役割の、松雪泰子、瑛太姉弟中心の場面の冗長さこそが、風味を消してしまう原因ではなかったかと。


物語を観客に浸透させる目的なのか、他の場面に比して松雪、瑛太のシーンは落ち着いた語り口で展開されます。しかしそれが「シリアス」ではなく、「平坦」に見えてしまうため緊張感を高めるものになっていない。ゆえに、松雪と不倫関係を結んだ者が惨殺されるという興味を引きやすいフックがあるのに、サスペンスたり得ていません。


この、サスペンスになっていないということは全編を通しての弱点で、山崎一扮する男が戦時中に誤って味方を射殺してしまったトラウマ、前述した惨殺事件、動物園の爬虫館での探偵と犯人の攻防、松雪演じる娼婦が招く事件や鍵のかかった部屋にあったという大曽根夫人の裸婦画、松雪・瑛太の近親相姦的関係など、いくらでも妖しげな要素はあるのに、それらがことごとくぼんやりとして際立たないため、散漫なまま効果を生んでいません。重点を置く要素を数個に絞って、それらだけでも太い線で描けていれば、列記したようなサブストーリーも雰囲気の補助として光ってくるのでしょうが。結局は作品の最大部である松雪・瑛太パートの味のなさによって、その他のサブ要素も、ストーリーはしっかりあるのに推進力が生まれず消化不良になっています。


瑛太は夏の牡丹燈籠の頃に比べると、役柄の変化もあってか立ち姿の存在感は増しています。しかし、彼の売りであろうナチュラル感は、やはり現在のところ舞台的演技にはもうひとつ不向きであるかと。舞台でナチュラルさを出せる俳優は多くいますが、複製媒体向きに形成されている彼の「ナチュラル」は、舞台においては味のなさになってしまうようで、上述している松雪・瑛太パートの冗長さの一因はここにもあるのではないでしょうか。とはいえ、彼らのパートに関しては台詞のやりとり自体の平板さもあるので(近代につくられた歌舞伎の長々した説明台詞を聞いているような感じも少しあるかと)、そこにあまり押しつけるのはよくないのでしょうが。瑛太の舞台慣れというか成長も見られたように思うので。


探偵助手・犬山イヌコと推理小説家・大倉孝二のやりとりはさすがにケラのナイロン。話の展開を密にするし、興味を持続させます。間合いを上手にはかったケラの笑いとはこれであったな、と思い出させてくれる。このテンポをメインにすればよかったのに。テーマ的には盛り上げきれなかった今作品中、ケラの面白さをもっとも堪能することができたのは彼らのシーン。プラス山崎一が主体となった、序盤の満州での軍小隊場面でした。


まとめっぽく全体的にいうと、時代設定できた。ディテールそろった。サブストーリーそろった。でも、色がついてねえ、という感じでしょうか。あの、サブストーリーが消化不良っていっても、各要素を投げっぱなしで終わってる、とかじゃないんですよ。話の流れはひとつひとつある。でも、起伏というか話のキャラ立ち、とでも言おうか、それがないので平板になっていて、レトロモダン東京も探偵小説風妖しさも具現できてないんですよね。あとひと月くらい熟成期間かけてつくったらよくなるのかもしれません。そういう意味では、前回のクドカン歌舞伎に続いて、時間がない中でのアウトプットって絶対顕著な無理がくる、ということのサンプルであったかもしれません。三部作構想もあるようなので、じっくり時間をかけて、ぜひとも。
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