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懐メロじゃないように

*『上海バンスキング』 シアターコクーン (2010.3.3)


往時を知っている方々にとっては、大きなプラスにも大きなマイナスにも転びうる舞台なんでしょうね。


人気演目の16年ぶりの再演、初演から数えれば30年を経ているわけですが、吉田日出子、串田和美、笹野高史といった主要キャストは往時を知る人にとってはお馴染みの顔ぶれ。その座組みの再結集となれば、それだけで演者も古くからのファンも高揚することは想像に難くありません。一方で、そういういわば同窓会的な盛り上がりに飽き足らないという感想も見聞きしたりはしていまして。


時を経て、役柄年齢と大きく離れたキャストの老け具合や体型の崩れ具合等々、往時とは舞台上での存在のあり方が違うことは確実でしょう。その落差が目につく方々にとっては、やはり「同窓会」ゆえの高揚だと感じられるのかもしれない。実際、同窓会ゆえの熱狂である、というのはある程度まで正しいと思います。往時を体験していない私にとってそれは「他人の同窓会」なわけで、そうした内輪的な盛り上がりに終始しているとすれば、到底乗れるものではありません。串田和美+笹野高史(+中村勘三郎)がたまに見せる内輪的な笑いのイメージもあって、開演時には危惧のほうが強かったと記憶しています。


端的にいいますと、一見さんを乗せてゆく力のある、レベルの高い舞台であったと思います。

日中戦争下の上海を舞台にした日本人「ジャズメン」たちの話。楽曲が大きな見せ所、聴かせ所になるわけですが、歳とっただなんだといってもやはりシンガーとしての吉田日出子の強度は並ではない。場の一体感を統べる存在として説得力があります。
ところで芝居としては、もちろん演技のうまさもあってこそ、その歌唱力に意味が出てくるというもの。吉田の演じるまどかは、波多野(串田)ら男性キャストにとってみれば、波多野が苛立ちながら言っていたように「鈍感」なわけですが、その「鈍感」な彼女が中盤、終盤に至って、はっきりと芯の強さを持った存在に見えてくる。この役を完全に自分のものにしている彼女の巧みさです。

吉田日出子を中心に、手練れの俳優陣は劇中世界の雰囲気をつくるのに長けています。この劇にはインチキなカタコト日本語が飛び交うし、楽屋オチ的に観客をくすぐるようなタイプの笑いもしばしば出てきます。こういう要素は観客を和ませる一方で、劇世界の緊張感を削いでしまったり、弛緩し過ぎの原因にもなってしまうのですが、劇中の空気がしっかりしてるから、舞台上が日中戦争下の上海であることは揺らがない。この点、さすがです。


劇中のショーは、俳優陣がそのまま演奏家となって楽器を演奏する。これは『上海~』において、外すことのできない特徴です。もちろん初演時などは、ただの「俳優」でしかないキャスト陣が、舞台にかけられるレベルにまで楽器を演奏すること自体にもスリリングさがあったのでしょうし、演奏できることが前提になり、演目自体がクラシック化した現在とは持つ意味がまるで違うはず。とはいっても、円熟することで信頼できるショーになる、という面もまたあるわけで、演奏パートはライブとして素直に楽しかったです。それから、楽曲が終わるごとに観客から拍手が起きても、それがストーリー上、直後の展開邪魔にならない、途切れた印象を与えない。戯曲としてもそのあたりのメリハリがよく整理されているのだな、と。


終盤、阿片中毒で意識も覚束ない波多野の寂寥感と対照的な、夢パートのセッションからエンディング、カーテンコールへの流れ。現実パートの波多野の姿があるからこそのラストの大きな波を、充分な強度で創出できていたと思います。カーテンコールを単なる挨拶以上のエンターテインメントにできることも、この劇の魅力です。


歳月を経て、俳優自身の年齢と劇中年齢が大きく乖離していくこと。そこには成熟も幻滅もあるのだと思います。長い期間の内に役柄が自分の手の内に定着していくと同時に、その役柄に対して外見的肉体的な不都合が生じることもある。今回の吉田日出子に後者を感じる方々もおられるはずだし、それはそれで正しい反応。それでも、往時を投影して「同窓会」を楽しめる人にとってのみ通用するような、そんな軽い水準の舞台ではなかった、と考えます。吉田日出子は、充分に「正岡まどか」でした。

自分は二十歳を過ぎてから、歌舞伎を窓口に舞台演劇に触れるようになった人間です。役柄と俳優の年齢との乖離は、歌舞伎には恐ろしいほど存在していて、正直自分はそうした配役に違和を覚えることも少なくないし、歳を経ることを「円熟」として容易に受け入れる立場にはありません。しかしそれでも、歳を経ても若い役を演じ続けうるということを、けっこう信じているのかもしれません。
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