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笑いにも狂気にも誠実だからこそ

*作・演出 松尾スズキ 『女教師は二度抱かれた』 シアターコクーン (2008.8.6)


人間の狂気や、社会が安易にタブー視してしまうものに向き合い、それを観る者に突きつけることで、強烈な提起力をしばしば見せてきた作家、とここでは松尾スズキについてそう表現しておきます。狂気、といえば今作『女教師~』の登場人物もまた、痛々しく狂っている。元教師の自称女優・山岸も、その山岸の夫・鉱物も、天久のマネージャー白石も、その恋人のバンドマン・元気も。


本作においてそれらの狂気は皆、根源で一途な恋慕と結びついています。山岸は教え子の天久と肉体関係を持ったゆえに流転、演劇で成功した天久から女優として請われるのを待ち続けて(肉体関係に端を発した因果を直視できなくて、とも言える)発狂し精神病院に入院。地方の名士の家柄出身のコネを使い、その精神病院に自ら入院してまで山岸の面倒を見ようとする鉱物は、山岸への一途な想いゆえに狂気めいた過剰な保護を彼女に与える。狂気(山岸)を狂気(鉱物)が保護する閉じた世界の中で、「女優・山岸諒子」の存在は守られている(二人の主観の中だけで)。気鋭の演出家・天久のスタッフとして軌道に乗りかける白石に対して、無軌道な想いをぶつけ続ける恋人で売れないバンドマンの元気。想いの大きさゆえの無軌道なのですが、それは恋人への、あるいは自身への暴力的な行動となってあらわれます。その暴力に嫌気さすことなく付き合い、受け入れている白石もまた正気ではありません(まあ、共依存関係のDVってそういうものですよね)。

彼らの狂気は皆、一途な想いの大きさゆえ。だから相手への恋慕は最高にピュアなのだけれど、ピュアだからこそ陥っている闇は恐ろしく深い。そして、とりわけ山岸(と元気もか)について言えば、人生の「うまくいかなさ」への「直視できなさ」が、この狂気と強く繋がっているのです。狂気の中で山岸は、「女優でありまた天久と相思相愛である自分」を描いている。だけどきっとどこかでそれが現実でないことへの恐れもあって、それが彼女を狂いへと導いている。悲しいし、でも仕方ないし。「仕方ない」ことにできなかった山岸が天久と共に居る時のうつろな表情は、ぼんやりと嬉しそうで、限りなく悲しい。


松尾スズキは、狂人を顕在化させ観る者に直視させることで、狂人の人格と誠実に付き合っています。それは、タブーにして触れないことにし、気を遣うことよりもずっと、精神異常者に対して「平等」(って安っぽい言葉ですけれど)な態度ではあろうかと。


大人計画がすばらしいのは、笑わせる演劇として当代一級の劇団であるから。笑いを際限なく盛り込みながらでも、重いテーマと向き合うことはできる。否、大人計画を見ていると、笑いは平気で重苦しいテーマ性と共存し、互いを際立たせている。そもそも軸の対極のように笑いとシリアステーマを対比することがナンセンスなのです。取り組みたいテーマがある。笑わせたいスタイルがある。だからそれをやっているだけなのでしょう。このとき、笑いに対する姿勢が一級であることは、非常に大事です。言語でもテンションでも笑わせることができる劇団なのですが(テンション主体の笑いの場合でも、言語的センスはおざなりにしてないけれど)、なにしろ引き出しが多い。それら笑いのポイントは脚本の中に付け足し的に放り込まれるのではなく、それらもまた脚本の流れの一部を形成してゆく。だから三時間の劇が間延びせずに引っ張れる。そのスタイルだけで大きな売りであるでしょう。(部分的におふざけを入れていれば笑いになる、と安易に考えている節がある劇団が小劇場系に散見されるのが残念。いちばん、提起力で勝負しなければいけないのに)。


あとはなにしろ、役者が皆達者。大人計画の役者の水準の高さ、引き出しの豊富さもさることながら、山岸役の大竹しのぶは際立って上手い。狂気の表情には鳥肌。市川染五郎は、松尾スズキの劇の中に入るとそれほど手数の種類が多いわけではないでしょう。やれることの多さでいえばきっと、大人計画の各役者に利がある。ただし、佇まいのだらしなさの表現は秀逸でした。

今年観た中ではベストの演劇になる予感。


11月2日追記:「歌舞伎の伝統はそう簡単に壊せるものじゃない」的な、阿部サダヲ(歌舞伎俳優役)の台詞はちょっとメッセージとして陳腐に見えたかな。あれはやっぱり誰かに対して、何かに対して気を遣った結果生じた展開なのでしょうか。いや別に、気を遣うこと自体は全然いいんですけれど。
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