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呪いなき時代のリスタート

*マッスルハウス9 後楽園ホール (2010.5.4)


ガチ(真剣勝負)/ヤオ(八百長)の単純な二元論の勢いに呑まれて色あせかけたプロレスを、気のきいた(ここが大事)カミングアウト手法をもって肯定してみせたのが、そもそものマッスルの素晴らしさでした。
「ハッスル」のようにエンターテインメント路線をベタに突き進むのとは、ある意味真逆のやり方で「台本」の存在等を公表しつつ、巧妙に展開させることでプロレスの魅力を否応なくあぶり出してきた。ガチ/ヤオの硬直的な二元論の「呪い」を知的に笑い飛ばしてきた爽快さがそこにはありました(詳しくはこちら)。


そういう自らの役目の第一段階を、「マッスル」は少し前に終えていました。彼らの示した視点はここまでである程度共有されたし、プロレスを擁護したい側にとってなにがしかの余裕をもたらしてくれた。

そうした成果がもたらした土壌の成熟はまた、「マッスル」の頭脳であるマッスル坂井自身の迷走の始まりでもありました。彼らの提示したインパクトと知性が大きなものであっただけに、次の一手に対する期待は必要以上に高まってしまって、ただのパロディ、ただの「笑える」では見る側も、おそらくは本人たちも行き詰まりを感じてしまう。笑いの先に鋭い問題提起を見せてこそのマッスルではないのか、と。
行き詰まりが末期的にあらわれたのが昨年5月のマッスルハウス8でした。その行き詰まり、修羅場をむき出しにすること自体が見世物にはなっていましたが、この先どうするのかなあ、とは皆が感じていたはず。2010年始には大会は組まれず、一年ぶりの開催となったのが今回の大会。


「キングオブコント」をパロディ化した「リングオブコント2010」が今回のメインテーマ。鶴見亜門の確かな仕切りと演技力を中心に、ゆるやかに本家をパロってゆく空気感で、いつものマッスルを思い出させてくれる。出場選手それぞれが個別に試合をプロデュースし、得点を競うという趣旨。
採点制プロレスといえば、マッスル自身がかつて演ったフィギュアスケートプロレスを想起するのですが、その際のような尖鋭な批評性は、今回は特になし。先にも言いましたが、その役目は少し前に終えているのです。その頃と同質の尖鋭性を求めるのは立場上、また環境上、すでに難しくなっています。そういう環境が出来上がるほどにハイレベルな批評を示してきたのもまた「マッスル」自身なのですが。


それはともかく、個々のプロデュース試合はいつものマッスルのクオリティを存分に示すもの。男色ディーノ対趙雲子龍(改め新キャラ“諸葛孔明”)では試合中、場内各所で喧嘩が起こり、それぞれが衣服を脱ぐとディーノと趙雲のコスチューム。「ディーノ対趙雲」が計5か所で同時発生したのち最終的にディーノ5人対趙雲5人のタッグマッチに。菊タロープロデュースの試合では後半、1986年のアンドレ・ザ・ジャイアント対前田日明戦を再現。あるいは広田さくらの「引退試合」、大谷晋二郎の新日本プロレス時代にタイトルを獲れなかったスーパーJr.を(マッスル自前のレスラーで)再現するなど、プロレスもプロレスファンも大事にしつつ、外部にも届かせうる流れをつくっていました。ラストはマッスル坂井が、なりゆき上面倒をみるはめになっていた20人ほどの児童を引き連れて、子供の顔色をうかがいつつ、最後は青塗りのドラえもん風キャラ「肉えもん」となって、六角レンチで相手を襲撃。キングオブコントの幕を閉じます。

もちろんのこと、ただのパロディ等々で終わってしまっては、これまで築いてきた「マッスル」のクオリティではありません。とはいえ、迷走が続くマッスル坂井、ここより先に機転をきかせてなにかひっくり返すような余裕もありません。前回はその行き詰まりの中でのもがきそのものを、かろうじて見世物として呈示していましたが、今回はその手も使えない。本当の手詰まり。


代替案として示されたのは、坂井自身が正面突破のプロレスを今一度やることでした。たぶん、この回帰はとても大事。ことの成り行きをキングオブコント審査員として見守っていた、「マッスル」の母体DDTプロレスの高木三四郎社長の口から坂井に、「楽な方、楽な方(パロディやお笑いでお茶を濁すのみのプロレス)じゃなくて、もっと厳しい面をみせなきゃいけないんじゃないのか」と叱られ、急遽大谷晋二郎とのシングルマッチが組まれます(高木自身が「俺が対戦相手になる」とばかりに服を脱ぎ始めたところで、坂井が大谷を指名して高木がコケる、的なくだりもありつつ)。


大谷の体躯の強さに圧倒され敗れながらも、このところ「酒、ギャンブル、『ハッスル』など、楽な方ばかりに行っていた」坂井は正面から大谷の技を受けるプロレスを展開。ここでプロレスラーとしての「厳しさ」を見せる。「マッスル」的な台本構成の緻密さ等ではない、ストレートなプロレスというスタートライン。そしてラストのMCでは、仕切り直して「マッスル」を続け、武道館興行を行いたいという目標を掲げてみせました。


正面突破のプロレスを愛するがゆえに、プロレスの正面玄関とは異なる場所から頭を使って問題提起をしてきた「マッスル」は、自らの武器である斜からの知的さを継続することに行き詰まりました。だからこそプロレスを正面から受ける大谷対マッスル坂井が必要だった。リスタートして「マッスル」として何を提起できるのか。簡単ではありませんが、次の展開にもまた、観る者のハードルが上がってしまうのがこのマッスルの、優秀さゆえの悩ましさです。
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