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境内のシェイクスピア

*椿組『天保十二年のシェイクスピア』 新宿花園神社境内特設ステージ (2010.7.20)

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井上ひさしの手による本作が初演されたのは1974年。1960~70年代初頭あたり頃の日本のシェイクスピア劇について蜷川幸雄が以前、「なんで、あんなに教養主義というか、啓蒙主義というのか、学校へシェイクスピアを習うように劇場へ行かなきゃいけないんだ?」という反発があったと述べています。おそらく本作はある程度、井上ひさしなりのスタイルでその違和感を表明した作品でもあったのでしょう。シェイクスピア全作品のエピソードを織り交ぜて天保期の任侠劇に仕立てたこの劇は、シェイクスピアをダシにした明快なエンターテインメントになっています。

教養主義的なシェイクスピア観に対するアンチテーゼ、といっても、シェイクスピア全作品を作中に入れ込むというスタイルを生真面目にやってしまうと、それ自体が知識をひけらかしたペダンチックな遊びにも見えかねない。そうなっていないのは、あくまで幹となるストーリーをスリリングに紡ぎ、ばかばかしい笑いで包むスタイルを主眼に置いていて、その目標がぶれていないからだと思います。シェイクスピア作品のエピソードや台詞を知っていれば知っているで要所要所に反応できますが、事前知識がなくても決して退屈さも冗長さもないでしょう。
初演当時にあったであろうアンチテーゼは、今日そのまま妥当するものではないかもしれませんが、それでも全く無効になったとは思いませんし、そもそもそんな主義や立場を抜きにしても、単純にシェイクスピアで遊ぶことの面白さが存分に表現できている戯曲です。


飯岡・笹川両地の境にある、女郎を売りにする二軒の旅籠同士の諍いを軸に、その両旅籠の持ち主である姉妹間の勢力争い、姉妹それぞれの肉体にそそのかされつつその主人の座につこうとする用心棒たち、両旅籠の争いのうちに漁夫の利を得るため画策する傴僂の男らが蠢く。


なにより最高なのは、セックスや謀略、うつろってゆく人々の関係のラフさ加減が、仮設テントの現出してくれる荒い手触りによくマッチしていること。登場人物たちは、権勢とセックスを求めながら、綺麗とは言い難い世界で己を見せつけては死んでいく。団扇の手放せないじめじめしたテント小屋は、小汚くも魅力的なその模様を体感させるにもってこいの場です。仮設の小屋がつくりだす磁場と相性の良い世界観が創出されています。主人を追い落として旅籠の主の座についた幕兵衛が妻・お里の計略を疑う末、セックスの最中に彼女を刺し殺す場に至って、汗臭さと高揚感と苛立ちでその磁場の効果は最高潮に達しました。


テントという場との相性はまず特筆すべきなのですが、役者たちの表情も素晴らしい。権力欲と肉欲に突き動かされる人物たちの顔には野心も逡巡も色濃くあらわれるし、その緊張感のある顔つきはどれも皆格好いい。後半特に存在感が際立ってゆくお光/おさちの双子を演じた李峰仙は、薄暗く湿気っぽいテントの中で光を当てられたみたいに楚々として美しい。
2005年にシアターコクーンで上演された蜷川幸雄演出版の『天保十二年の~』も、コクーンらしい豪勢な顔触れで、それはもちろん皆いい顔してたのですが、椿組晩版も濃度はまったく劣っていない。テント小屋が引きだしてくれる雰囲気の助けもあって、椿組に利がある部分さえあったかも。

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ラストは農民の蜂起とともに仮設小屋の一部が倒壊し、閉塞していたテントが外部に開かれての祝祭的シーンが登場します。密閉空間に風穴をあけるこの演出はコクーン歌舞伎や平成中村座などを想起させるものでもありますが、コクーンが完全な「建物」、中村座が仮設とはいえそれなりの規模の小屋であったのに比して、ここは神社境内の一角に建った小さくて暑苦しいテント。外界に風穴が通った瞬間の解放感に加え、このテントなど簡単にすぐ取り壊してしまえるのだなという儚さも垣間見えるその崩れっぷりは、芝居内の喧騒と相俟って強く爪痕を残す。


今回は晴れていたのでまだ快適でしたが、雨の中、崩れたテント壁の外で役者たちがずぶ濡れになって踊りわめくラストシーンというのも見てみたいかも。そんな天気ならば、客席で相当不快な汗にまみれることは間違いありませんが、それもまた快楽に変換できるのが仮設テントの磁場というものですし。
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