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ハイカルチャーとは、中身じゃなくて器の問題

*八月納涼大歌舞伎 第二部 『つばくろは帰る』『大江山酒呑童子』 歌舞伎座
                                                 (2008.8.10)



かっちりした着物ではなく浴衣姿の観客も多いのが納涼歌舞伎。15年近く前、中野翠氏(と林真理子氏)が、浴衣で歌舞伎座に来るのはマナーとしてありえない、と批判してましたけど(きちんとお洒落していくべき場所に「寝巻きみたいなもの」を着て行くとはいかがなものか、という理由だった)、現代人にとって浴衣は寝巻きではなくファッションです。かわいいし華やかなのだから、「お洒落していくべき」だとしてもそのコードにはかなっているでしょう。まあ、年配者と若年層の感覚の齟齬なんていくらでもあるから。

といっても発言当時中野氏は30代だから、年寄りの感覚とか言うことじゃなくて、歌舞伎を知っている、大事にしている自分に酔いたかったゆえの発言という気もするけれど。格調高い場に土足で上がり込んでくれんなよ、みたいな。

9月17日追記:先ごろ出た『演劇界』10月号でも中野氏は再度、「寝巻きみたいなもの」説を唱えて嫌悪感を示しておりました。ええと、いや、なんでもない。


さてその格調高い歌舞伎座での一本目は『つばくろは帰る』。昭和40年代の時代小説の戯曲化。生き別れた親と幼い子供、行きがかり上その子供の面倒を見る気のいい独身男、親が子と別れたやむない事情、実の親より面倒を見てくれる男になつく子供。時代小説・ドラマのある種の常套的設定といえましょう。舞台化により新鮮な提起力が生まれるということではなく、おなじみの泣かせ劇を舞台上に顕現する結果になるのはある程度予想されます。それはそれで嫌いなわけではないのだけれど、これを二時間弱かけて歌舞伎にかける意味がわからなかった、というのが正直な感想でした(歌舞伎舞台にかけるのは今回が初)。ありがちな泣かせの時代劇ならば、一時間枠のテレビドラマの方がテンポもおさまりもいい。テレビドラマサイズなら面白く見られるものが、舞台にかけることでお涙頂戴の安いドラマ(で長い)という側面が強調されてしまってはいないでしょうか。古くからある歌舞伎演目にはそのドラマに現代的な新奇性を求めるべきではないのだけれど、にしたって黙阿弥などはもっと仕組み方に手数の多さを感じさせるわけだし、お涙頂戴の安い劇+子役のかわいさと若い男女の恋の痴話で笑わせる、ではあまり舞台として志の高さを感じないのでは(お涙頂戴自体が悪だといっているのではありませんよ)。古典歌舞伎ではない、あえて近代(それも昭和40年代)に新作をつくるなら、それなりの意味はほしい。

と思って飽いていたら、周囲の観客のほうぼうからすすり泣く音が聞こえる。見回したらほんとに泣きじゃくっている人だらけ。
間違ってました。これでいいんです。ここでは舞台演劇としての新奇性が大事なわけじゃない。高い料金を払い、めかし込み、高級なものを見ている気分に浸ること。それが肝要なのだ。そこで見る安いドラマは、テレビで見る安いドラマとは違うのだ。というか安いとかありがちだとか、そんなふうにうがったことをいうのは、すごく場違いなのだ。歌舞伎に行く。それだけで高級趣味とか、ハレの気分とか、自己顕示とかいろいろ満たされるのだ。伝統って怖い。


『大江山酒呑童子』はそもそも能の『大江山』に取材した松羽目もの。元のバージョンは未見。今回はコクーン歌舞伎演出の串田和美が美術を手がける。水墨画(だったと思うけど)で景色を描いた大きな掛け軸型の紙を三枚、背景に配し、舞台は中央に一枚一段高くなった板張り。終盤にその板が垂直に立ち上がり、酒呑童子がその立ち上がった板の高いところから型を決める趣向(見えヅラとしてはがんどう返しに近いもの)。美術はそれなりに面白く、松羽目の舞台に反射的に(退屈かも)と思ってしまわぬための工夫がなされている。退屈かも、という先入観は本当に舞台を退屈に見せてしまう。その意味で串田の企図は成功しているのではないだろうか。
ただ、その美術に比べて踊りそのものはそれほど面白くない。もちろん自分にまだ踊りを見る鑑賞眼など備わっていないのは承知だけれど、勘三郎の酒呑童子にそれほど良さを感じなかった。勘三郎得意の愛嬌で客席はやはり見事に沸くわけだが、童子としての佇まいよりも客受けが先行してしまう表情に見えたかな。後日歌舞伎座で近くの客が「あの童子の表情は本当に子供みたいな愛らしい…」って言ってたけど、すいません、はっきりいいます。絶対にそれはねえよ。
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