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ドキュメンタリーの反転としてのフィクション

*吉川友“生”出演主演映画『きっかけはYOU!』上映&スペシャルミニ・ライブ シネマート新宿 (2011.4.30)


 今日のアイドル、とりわけ「アイドル戦国時代」という繰り返されてきた惹句の範疇に入るアイドルたちが手掛けられる際、常套となっているのが“物語を紡ぐ”こと、そして“素を垣間見せる”ことへの自覚です。AKB48に見られる、メンバー間の関係性や序列の可視化を通して彼女たちが背負っているストーリーを受け手に想像させ、またそうした運営の方針に翻弄される彼女たちの素の身体やメンタル(と思しきもの)を晒すそのやり方は象徴的なものといえるでしょう。秋元康が「AKB自体がドキュメント」と語るように、アイドルが「事件」(往々にして運営が仕掛ける)に直面し、そこに彼女たちの「素」の姿、リアクションがあらわれるというコンテンツのあり方は、ドキュメンタリー性を強く打ち出したものといえます。スキャンダルやメンバーの不意の脱退という計算外の出来事も、周到にドキュメンタリーの文脈に織り込んでゆくしたたかさを持つことは、アイドル運営に関してひとつのリテラシーになってさえいるようです。

2011_4_30_kikka_1

 さて、本作の『きっかけはYOU!』に特徴的なのは、そうしたドキュメンタリーを紡ぐしたたかさ自体を、反転したやり方で批評してみせていることです。アイドルプロデュースの常套としてAKBなどの“パッケージから漏れ出るドキュメンタリー性をパッケージして提示する”方法があるとするならば、『きっかけはYOU!』は逆に“ドキュメンタリーそのものもまた主観や計算を通じた作為的商品であることを、フィクションを通じて見せている”といえるでしょうか。


 ハロー!プロジェクトの研修制度である「ハロプロエッグ」研修生のうちでも際立った存在感を示し、MilkyWay等のアップフロントグループ内ユニットにも参加していた吉川友。ハロプロファンの間では評価も期待も高かった彼女はしかし、ハロー!プロジェクト内で円滑なデビューに至ることはなく、昨年末に「ハロプロエッグ」の研修課程を修了します。最近の例を見る限りエッグ研修課程の修了は必ずしもプロへのスタート地点ではなく、むしろ今後の方針が不明確のままに置かれることも多いのですが、吉川友に関してはレコード会社をUNIVERSAL Jに移してデビューすることがすみやかに決まっていました。映画は冒頭、吉川友が突然デビューすることを知らされ、UNIVERSAL Jのスタッフを前に困惑するところから始まりますが、ここに至る伏線は実は映画外で張られていました。


 吉川友デビューにあたってプロモーション側では、彼女のデビュー準備やレッスン、レコーディング風景などを追う短編の連続ドキュメンタリー「きっかチャンネル」を制作しネット上に公開していました。饒舌なナレーションとテロップによって吉川の様子を映し出すそれはまさに、テレビ番組『ASAYAN』が往時、モーニング娘。に関して行なっていた手法であり、アイドル活動にサイドストーリー提示を連携させるドキュメンタリーとしてはきわめてオーソドックスなものでした。
 本作『きっかけはYOU!』もそれを引き継ぐように開始直後、「きっかチャンネル」の映像がそのまま使われます。突然のデビューを知らされ、うろたえる吉川。
 と直後に「カット!」の声。カメラのアングルが切り替わり、吉川を捉えるカメラ。音声スタッフ等を含めた引きのショットが映し出される。つまりここで提示されるのは、本作が「きっかチャンネル」で映し出される“ドキュメンタリー”制作の裏側をさらにもう一枚外側から捉える、メタドキュメンタリーである、という暗示です。

 しかしその認識は直後に裏切られる。「きっかチャンネル」制作を追っているかのような風景は妙に芝居がかっている。始めはドキュメンタリーを追うドキュメンタリーであるかに見えたカメラアングルも、リアリティを超えたアングルに切り替わる。しまいには、吉川の売り出しに悩むスタッフの声を角越しに吉川が盗み聞くシーンが複数のカットで表現される。
 つまりこれはここで明確に「劇映画」となります。「きっかチャンネル」という現実に進行しているプロモーション用ドキュメンタリーを制作する裏側を、フィクションによって描いているわけです。劇映画の制作風景をドキュメンタリーとして描くというのはよくあるものですが、ここではそれが反転している。この混ぜ返しは試みとして興味深い。


 ここに見られるドキュメンタリーへの批評的視点は、いうまでもなくAKBのようなドキュメンタリー性を打ち出す戦略への距離感の表現であり批評です。ここに象徴的に見られるように、この映画のスタッフはアイドル界の現状を読み込みそれに回答することに自覚的です。映画は「きっかチャンネル」をはじめとする、吉川友のプロモーションをいかに成功させるかをテーマとして進行しますが、その中で同じレコード会社所属となるアイドルグループ・ぱすぽ☆との対立構造を展開しようと打診する人間も登場します。「戦国時代」にしばしば見られる、アイドルグループ同士の対抗的構図を煽る戦略に対し、劇中の吉川友側スタッフは明確な拒否を示します。また、シンプルに正統的に彼女の魅力を打ち出そうとするスタッフに対し上司は、通り一遍の売り方では無理、とギミックの強いプロモーションを推す。いずれも昨今の女性アイドルグループの状況を仮想したものでしょう。その中で、吉川友という現実に存在するアイドルを売りだすための試行錯誤を、あくまで劇映画として見せ続ける。

 このあやういバランスでの設定は挑戦に他ならないですし、やはりそのことには賛辞を贈りたい。あくまでフィクションの台詞として吉川がつぶやく、「何が演技でどれが本当の自分かわからなくなってる」というフレーズが、この映画のスタンスをあらわしています。



 しかし、ここまで書いてきたことでも見てとれるようにこの設定自体が、考え抜かれたうえの重層的なギミックではあります。心意気はおおいに買っていますが、この設定にした結果、吉川友の正統派な魅力を語るうえで大きな障害も生まれたように思います。
 もっとも気になったのは、結局映像内に限ってはすべての出来事を劇映画、つまり「フィクション」として回収してしまったゆえに、実際の「きっかチャンネル」では吉川自身の感動的な成長エピソードたりえていた部分まで「お芝居でした」と結論づけてしまう格好に、結果的になっていることです。


 「きっかチャンネル」の山場のひとつとして、レコーディングに臨む吉川が音楽ディレクター(michitomo氏)の要求に応えきれず葛藤し涙するシーンがありました。「きっかチャンネル」ではその続編に、ディレクターのアドバイスを受けて再度レコーディングに臨んだ吉川が前回とは明確に違う表現力を身につけディレクターが感心した表情を浮かべる場面があり、それはオーソドックスとはいえ吉川友の成長やアイドルとしての魅力を伝えるドキュメンタリーとして秀逸な瞬間になっています。
 しかしそのシーンの「裏側」という体裁で、吉川が落ち込んでいるシーン、また次回のレコーディングに臨み表現力を身につけるシーンを「劇」として提示されてしまうと、あの秀逸なドキュメントの瞬間を「フィクション」として着地させているように感じられました。あまつさえ、その「フィクション」部分に実際の「きっかチャンネル」の映像が接続されることで、受け手が吉川友に見ているひたむきさは演出である、と宣言しているかのように映ります。

2011_4_30_kikka_2


 ドキュメンタリー的なアイドルプロモーションは確かに飽和状態であり、その状況に一石を投じる姿勢は非常に面白い。しかしまた、ドキュメンタリー的手法が飽和するのは、それがアイドルの魅力を伝える方法として効果的だからでもあります。そこにアイドルの「素」の姿を見出すことは、ファンの非常な喜びであり興味の持続でもある。現状認識を踏まえて練りに練った結果、シンプルな吉川友の「素」(らしきもの)は見え難くなったように思います。
 パンフレットには、その中で「リアリティ」を追求し「リアルな吉川友」を伝えることを心がけたと謳われています。しかし、「きっかチャンネル」で見せた「リアル」さえ「フィクション」として着地させてしまうことで、本作の(映像パートにおける)吉川友はまだ「素」を見せてくれない、フィクショナルな吉川友であるように映りました。

 新たにレベルの高い課題を課された際に吉川が講師を前にして吐く露骨な弱音は、およそハロー!プロジェクトというプロフェッショナル集団で研鑽を積んできた人間が発するものとしてリアリティはありません。この弱音は明確な演出、芝居ですが、このフィクションの中で「リアルな吉川友」を伝えたいというならば、こうしたディテイルには気を遣うべきかと。この映画は最終的に吉川友の魅力を信じて、“プロモーションの文脈作りのためにわざと本人の能力より劣ったことをやらせるという不誠実さに対してNOをつきつける”という場面があります。その映画自身が、この弱音の件りではまさにそういう不誠実をやってしまっているのではないか。
 この映画中でマネージャーが吉川の性質を察してつぶやく台詞「きっかは俺らが思ってるよりよっぽど強いんだね」は残念ながら、言い方は良くないですが陳腐に見えました。


 しかしやっぱり、吉川友という最高の素材には、希望を託すことこそふさわしい。上述した映像パートの不備は、結局は吉川友という人間の身体によって脇に押しやることができる、と思います。この映画は吉川友が実際に映画館で行なうライブと連動しています。
 映画終盤、業界内の“きたなさ”が露悪的に表現され、それに対峙する吉川。その回答としての映画館での生ライブ。スタッフが「アイドル戦国時代」を批評すべく考えに考え抜いた映画プランも、そのプランによって吉川の「正統派」のスタイルがいささか曇ってしまったことも、映画終了と同時に始まる彼女のライブで瑣末なものに転化してしまえる。そこに彼女の素材の良さ、天性の華はあります。
 
 また、映像作品としての捻り過ぎなスタイルを度外視して、この作品に映る彼女の姿は本当に美しい。率直にいえば、彼女自身がステージに生で登場した瞬間よりも、スクリーンの中の方が彼女の魅力をずっと雄弁に語っていました。レッスン着のスタイルのまま葛藤する表情のアップ、夜の街路沿いでコートを着たまま踊る彼女のシルエット。そして、生ライブが挿入されたのちに流れるスタッフロールでの彼女の“本当の”オフショット。

 その姿だけで充分にアトラクトできるのだから、もうそれこそ「戦国時代」を意識し過ぎた演出プランなんていらない。そもそもグループアイドルが主な範疇である「戦国時代」を、吉川友サイドが意識することはどこまで有効なのかも疑問ではあるところ。映画全編を通じてのテーマは、ギミックに拘泥せずに、吉川友の魅力をシンプルにオーソドックスに伝えること、伝えるべき彼女の魅力を信じることです。ならば捻りに捻った映画プランではなく、彼女の素体を自信を持ってストレートに提供することがここからの課題ではないでしょうか。それこそが、彼女の魅力を信じる、ということでもあるでしょう。
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コメント

突然の質問失礼します。

今度初めてアイドルライブ(22日 SUPER☆GiRLS)に行くのですが掛け声などが全く分かりません。
何か注意すべき点などはありますでしょうか?

よろしければ教えて下さい

  • 2011/05/12(木) 02:20:55 |
  • URL |
  • びぎなー #s.Y3apRk
  • [ 編集 ]

びぎなーさんへ

はじめまして。

SUPER☆GiRLSについてはまだ少ししか知らないのですが、最近聞く限り客層が若く
近年アイドル現場で頻出する“MIX”という掛け声がかけられることが多いようです。

その掛け声をすることを“MIXを打つ”と言いますが
初めて聞くと何を言っているのか言葉がわかりにくいです。
「MIX 打つ」などで検索をかけると、文言はすぐわかるのではと思います。
またMIXはAKBのライブでもよく聞かれるので、AKBのライブ動画などを見ると
かけるタイミング等、感覚がつかめるのではないかと。

アイドルによって時折掛け声にローカルルールのようなものはありますが、
初めての時は皆見様見真似なので、こっそり周りの真似をしてみる感じで良いと思います。

黙って観覧している人も多いですし(自分もそういうことは多いです)
会場に行ってみて、周囲の雰囲気を見ながら自分の性格に合ったスタンスを決めていくので
良いと思いますよー。

  • 2011/05/13(金) 01:47:09 |
  • URL |
  • t_katsuki #-
  • [ 編集 ]

ご丁寧に返信下さりありがとうございました!

見学から始めたいと思います!

  • 2011/05/14(土) 00:06:55 |
  • URL |
  • びぎなー #-
  • [ 編集 ]

いえいえ、何かご参考になりましたら幸いです。
アイドルによって観客の雰囲気もけっこう違ったりしますし
ご自身に合う距離感の楽しみ方を探してみてください!

気が向きましたら、またこちらのブログにもいらしてくださいねー。

  • 2011/05/14(土) 00:13:42 |
  • URL |
  • t_katsuki #-
  • [ 編集 ]

たびたび失礼します。

今日SUPER☆GiRLS行ってきました!
ファンの方がいっしょにライブを盛り上げようとしてるのが伝わってきてとても楽しかったです!(ただ、MCのときは過剰な歓声は控えるべきなのかもしれないとも思いました。)

私は大学で演劇などを学んでいるのでこちらのブログは大変参考になります。

  • 2011/05/22(日) 23:26:30 |
  • URL |
  • びぎなー #-
  • [ 編集 ]

ステージ側のみならず客席も騒ぎ方を発展させている饗宴性が
アイドル現場の特徴のひとつかなーと思います。
MCの際もオーディエンス側が騒がしいというのは、その楽しさと裏表かもしれませんね~。
個人的にはちゃんとアイドルの言葉を聞きたいのですが…。
自分もSUPER☆GiRLSははやく体験しときたいですね!

拙ブログで何か得るところがありましたら嬉しいです。
演劇は実践もしたことなく、演劇学等も詳しくありませんが
自分なりの視点を形成できたらなあと思い書いております。
どうぞよろしくお願いいたします。

  • 2011/05/23(月) 22:56:39 |
  • URL |
  • t_katsuki #-
  • [ 編集 ]

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