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「ここにいたこと」

*北九州芸術劇場プロデュース『テトラポット』 あうるすぽっと (2012.3.2)


 まず、強く想起するのは海に呑まれた生命のことです。
 全編が「海」をモチーフにつくられたこの作品は、2011年3月11日を、そして本当は今でも当たり前にここにいたはずの人たちを、ごくごくありふれた(ようにみえる)ドメスティックなエピソードで想像させます。

 人物設定は直接的に東北を示すものではありません。あくまで北九州の人々が描かれ、家族の死も、それを受け止める兄弟たちも、その末弟がアクシデントとして経験する新しい生命のはじまりも、九州の方言で描かれ、そこで語られる生や死はありふれたもののようであっても、実際にあった何かではなく、まして大災害ではない。

 それでも作・演出の柴幸男は3月11日の記憶を明確にそこに重ねている。

2012_3_2_tetrapod_1

 時間が止まり、同じ場面が幾分ずらされながら繰り返される、その基点になりまた居場所にもなるのは、「2時46分前後」。東北地方太平洋沖地震の発生時刻です。繰り返し言葉にしてあらわされる「2時46分前後」は、北九州に息づく家族や知人の日常的(というフィクション)なエピソードのキーになってゆく。

 ある人物の喪失が語られるエピソードが進行していたかと思えば、そのエピソード終盤にその喪失された主体が実は「自分」なのだと指し示され立場が転換するような台詞が語られ、生者と死者の入れ替えがにおわされる。あるいはまたさっきみた「2時46分前後」に戻り、人物の時代設定が行き来し、学生だった彼らが大人に変わり、そのうえでさっきの台詞のシークエンスが反復され、途中で少しそのやりとりの軌道がずらされる。
 反復的、往還的な構成でほのめかされるのは、今はもういない誰かが、いま自分が経験している日常を経験していたのかもしれないこと。壮年を迎えた誰かの若い頃の些細なエピソードが、若くしてこの世を去った誰かにとっての「今日」であったかもしれないこと。一人称的な人物として登場する海坂三太(大石将弘)が、みんなはいないのか、と叫ぶとき、「みんな」は逆に、三太だけが“いない”という可能性を突きつける。今はもういない人のありえたはずの現在の日常を自分のものとして経験している我々と、我々と同じような小さな日常を持ちえたはずの誰かの喪失と。両者の本当はありえた現在への想像力が喚起されることで、面倒臭い母親の言動への応対も、みっともない男女関係も、もう割れてしまった家族関係の世知辛いやりとりさえも慈しみたいものに思えてくる。この日常風景的なエピソードが泣きたいほどに愛おしく見えてくる感覚は柴幸男が自身の劇団「ままごと」で上演した前作『わが星』にも通じるものです。


 この世の終わりをある意味肯定的に描いた『わが星』は、結果としてそのことが今ある生への祝福にもつながっていたように思いました。本作『テトラポット』においては、終末ではなくその先に繰り返される生の営みが強調されます。

 四兄弟の末っ子・四郎(藤井俊輔)との間に予想外の、しかも大きな“生”の体験をする川合らっこ(古賀菜々絵)が滔々と言葉にするのは、46億年前から繋がって自分たちの生へと連なり未来にまた今はいない生がうまれる、その繰り返しです。今はもう壮年を迎えた人物の少年期を、少年である別の人物の現在の営みに微かに重ねるような想像力を誘うこの劇を観ているうち、生者としてあること、死者としてあること、過去の生、未来の生へのマクロな捉え方と、日常レベルの些細さを丁寧に見つめるような捉え方とが不思議に重なる。
 劇中で象徴的に合奏される「ボレロ」の曲の繰り返しを背景にして、生の営みの繰り返しが「2時46分前後」に重なるとき、そこにあるのは鎮魂だけでも遠大な宇宙観だけでもない、優しさと哀悼と日常と、言い尽くせない何かが綯い交ぜになった感覚です。


 「当事者」であり、且つ「当事者」でないことの自覚を持ちながら、3月11日を受け止める作品を創作するのはとても怖いし難しいことでしょう。また観る側もその作品をどう受けたらいいのか、安易に結論も出せないし腑に落ちたような思いになれるはずもない。けれど少なくともこの作品には、生が失われてしまったという、取り返しのつかない事態の中でなんとかその現状を受け止めるための祈りが見えます。また翻って、今ここにいる我々という生を引き受け、慈しむ視点がみえる。この構成をもって、シンプルに切り分けられない多くのことを語ろうとした柴幸男の手際は素晴らしく、またそれを成立させた役者陣の好演も相俟って、演劇体験ということの強さと奥行きを確認させる作品になっていたと思います。
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